研究の概要

 近年,生態水文学に関わる研究において,vadose zone(地下水面より上の不飽和土層)が重要なキーワードとなっている。土壌に浸透した雨水や潅漑水は,vadose zoneにおいて,蒸発・蒸散・地下水帯への浸透などの成分に分配される。また,雨水や潅漑水や人工的な廃液に含まれる溶存物質は,vadose zoneにおいて土粒子による吸着や溶脱,植物根系による吸収,微生物による分解といった影響を受け,その濃度を大きく変化させる。さらにvadose zoneは,酸素,二酸化炭素,メタンなど様々なガスの吸収・発生の場ともなっている。このようにvadose zoneは,水・エネルギー循環,地下水や河川の水質形成,大気環境の形成などに重要な関わりを持っているにもかかわらず,その生態水文学的な現象の理解はあまり進んでいない。これは,固相・液相・気相が混在するvadose zoneでは,動植物の活動が活発で複雑な生物反応が起きていること,また水・溶質・ガスなどの物理的な挙動が地下水帯に比べてより複雑であることが原因となっている。これまで,vadose zoneにおける現象を土壌水文学的な視点から研究してきた。