2. 森林における生物的な作用が土壌の水分特性と水文現象に及ぼす影響の解析

 森林の土壌は,植物根系の成長,植物リターの蓄積,小動物や微生物によるリターの分解といった生物的な作用を受けて特有の孔隙構造を有し,他の土壌とは異なる水分特性を示す。この森林土壌の存在が,水循環に及ぼす影響を明らかにすることは,水文現象と生態現象を統合して理解する上で重要となる。約260種類の森林土壌の水分特性を研究1のモデルで解析した結果から,生物的作用を受け団粒状構造が発達した林地表層土では,孔隙径分布の平均値,標準偏差がともに大きいことを明らかにした。これに対して団粒状構造の発達が見られない下層土や未熟な森林の土壌では,平均孔隙径が小さいことがわかった。以上の知見に基づいて,森林における降雨の浸透現象をRichards式に基づく数値計算で解析した結果,団粒状構造の発達(平均孔隙径の増加)によって土壌水分特性が変化することで,雨水が不飽和土層を浸透するのにより多くの時間を必要とするようになり,洪水ハイドログラフのピークが減少して逓減時の流量が増加することが示された。また林地では,地表面における植物リターや腐植の作る厚い有機物層の存在が,生態水文現象に重要な役割を果たしている。特にこの有機物層の水分動態は,水循環や生物活動に大きな影響を及ぼしているといわれているが,その定量的な理解は進んでいない。植生の異なる4種類の森林から採取した有機物層を用いて降雨浸透実験を行い,有機物層内の水分移動がRichards式に基づく不飽和浸透理論によって記述できることを示した。さらに広葉樹林の有機物層が針葉樹林に比べてより大きな貯水容量を持つことを,定量的に明らかにした。

発表論文
Kosugi, K., Analysis of water retention curves of forest soils with three-parameter lognormal distribution model, Journal of the Japanese Forestry Society, 76, 433-444, 1994.
Kosugi, K., A new model to analyze water retention characteristics of forest soils based on soil pore radius distribution, Journal of Forest Research, 2, 1-8, 1997.
Kosugi, K., New diagrams to evaluate soil pore radius distribution and saturated hydraulic conductivity of forest soil, Journal of Forest Research, 2, 95-101, 1997.
Kosugi, K., Effect of pore radius distribution of forest soils on vertical water movement in soil profile, Journal of Japan Society of Hydrology & Water Resources, 10, 226-237, 1997.
小杉賢一朗,森林土壌の雨水貯留能を評価するための新たな指標の検討,日本林学会誌,81,226-235,1999.
Kosugi, K., K. Mori, and H. Yasuda, An inverse modeling approach for the characterization of unsaturated water flow in an organic forest floor, Journal of Hydrology, 246, 96-108, 2001.