3. 地表面における水・エネルギー交換過程に植生が果たす役割の解明
地表面における水・エネルギー交換過程を解明するには,物理水文学的現象とともに植生による蒸散量の制御という生理生態学的な現象の解析が不可欠である。カザフスタン共和国の大規模潅漑農業地帯を対象として,各種植生面における水・エネルギー交換過程の計測・モデル化を行った。その結果,潅漑の影響のない在来植生地では,植物が日中の湿度低下時に気孔を閉じて水分欠損を防ごうとするために蒸散量が低下すること,潅漑の影響を受けた在来植生地では湿度低下による気孔閉鎖の度合いが小さくなること,潅漑地のアルファルファは日射量に応じて気孔を開閉するのみで湿度低下時の制御を行わないために,蒸散量が多くなることが明らかとなった。さらに国内の森林流域において,水文学的・微気象学的・生理生態学的手法に基づくヒノキ林の蒸散特性の解析を継続しており,気孔の開閉による蒸散量の制御機構が vadose zoneの土壌水分の影響を受けていることを明らかにした。
発表論文
小杉賢一朗・福嶌義宏,乾燥地の大規模灌漑農場(アルファルファ畑)における蒸発散量の推定,水文・水資源学会誌,7,420-429,1994.
大手信人・小杉賢一朗,潅漑農地における蒸発散と流域の気象・水資源:アラル海流域の潅漑農地の熱・水収支と広域水収支,水文・水資源学会誌,11,623-632,1998.