荒廃人工林からの雨水と土砂の流出
森林は,洪水や土砂災害の発生を抑制する機能を持つと考えられており,「緑のダム」と呼ばれることがあります。しかしながら我が国では,戦後の拡大造林期以降に植栽されたヒノキ林が手入れされないまま放置されている例が多く見られ,表面流の発生と土壌侵食が問題となっています。ヒノキは,枝葉を水平方向に展開し下層への入射光を遮る,落葉が細片化して容易に移動するといった特性を持つため,下層植生の侵入や有機物層の発達が妨げられます。この結果,雨滴衝撃によって表層土が目詰まりを起こして浸透能が低下し,表面流が発生してしまうと考えられています。
このような林では,間伐等の手入れを行うことによって「緑のダム」機能を向上させることができる可能性があります。山地保全学研究室では,荒廃ヒノキ林からの雨水と土砂の流出の実態把握と,間伐等がもたらす効果の科学的解明を行っています。

三重県大宮町のヒノキ林を調査地に選定しました。間伐が不十分なため,細長い形状となったヒノキが密生し,まるで竹林の様です。遠目には緑に覆われていますが,林内は暗く地表には緑が見られません。

ひとたび雨が降ると,普段は涸れている谷筋に,滝のように水が流れます。

降雨のピークに対応して流域からの流出量が急増し,濁りもひどくなります。

ヒノキ林の林床に1×2mの区画を設定し,表面流と土砂の流出を計測しています。

林床がシダで覆われている場所にも同様の区画を設け,下層植生が表面流と土砂流出を減らす効果を調査しています。