パソ熱帯雨林のガス交換
NIES/FRIM/UPM熱帯林プロジェクト内の京都大学/森林総合研究所/マレーシア森林研究所合同研究チーム
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なぜ熱帯雨林のガス交換研究が重要なのか

 温暖化の原因である温室効果ガスの吸収源として、森林の果たす役割が期待されています。中でも莫大なバイオマスを有する熱帯雨林は、「地球の肺」として最大の温室効果ガスであるCO2の吸収などの重要なガス交換的機能を担うことが期待されています。その一方で、熱帯雨林が実際のところガス交換上どのような機能を有しているかについて観測に基づき評価した例は、驚くほど少ないのです。

 世の中一般に認識されている森林の「地球の肺」としての機能は、「森林は二酸化炭素を吸収してくれる」というイメージに代表されますが、このイメージと実際の森林生態系が大気との間で様々なガス態物質を交換する実態とは、大きく離れている場合もあります。森林は光合成による莫大な二酸化炭素を吸収すると同時に、生態系呼吸により莫大な量を放出しており、両者は時として拮抗しています。また森林と大気の間では二酸化炭素の102-3倍のオーダーで水蒸気がやり取りされており、この現象=蒸発散活動が、地球規模の環境システムに対して巨大な影響力をもっていることはあまり世の中に認知されていません。森林と大気の間では、ほかにも様々な微量ガスがやり取りされており、これらのすべてが「地球の肺」としての森林機能の実態なのです。しかしながら、森林におけるガス交換の実態に関する情報はいまだ十分ではなく、不確定な予測計算とイメージが先行しているのが現状です。

 我々がパソ森林保護区タワーサイトにおいて行っているガス交換研究は、熱帯雨林が、水蒸気(H
2O)、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、亜酸化窒素(N2O)、生物起源揮発性有機化合物(BVOC)、大気降下物(SOx、NOx)などの様々なガス態物質の吸収あるいは放出源(=シンク/ソース)としてどのように機能しているのかを、ガス交換の地上観測に基づいて評価することを目的としています。またその究極の目的は、ガス交換過程からみた熱帯雨林の在り様と機能について洞察することにより、「地球の肺」としての熱帯雨林のガス交換機能の実態を世の中の人々に知ってもらい、今後熱帯雨林をどうしていくべきなのかを正しく考えていくことにあります。

 環境問題の解決を考える上で、根幹となるのは、自然界の在り様・機能・可塑性・平衡とその限界に対する正しい認識です。とくに可塑性・平衡とその限界を知ることは、我々人類の未来にとっての最重要課題です。ガス交換の網羅的地上観測が非常に重要な意義をもつ理由はこの点にあり、森林と環境との相互作用はまさにガス交換を通して行われるし、そのバランスが現実にどこまでは保たれ、どこからは崩れていくのかについての情報は、現実の森林におけるガス交換機能の詳細の長期観測と、内部メカニズム解明の組合わせによってのみ得ることができ、数々の将来予測やそれに基づいたシナリオも結局、現状非常に限られた、これらの情報に立脚しているのです。
 
 
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