ロゴ 京都大学農学研究科森林水文学研究室 Forest Hydrology Labo, Kyoto Univ.
小杉緑子Yoshiko Kosugi

FIELDS 野外調査地の紹介

一枚の葉ではどんなふうに光合成・呼吸や蒸散(=個葉ガス交換)がおこっていて,それが森林樹冠全体としての炭素収支や蒸発散過程をどんなふうにして決めてるの?

森では,目にみえないどんなことが起こっているの・・・?

こんな疑問をいだいて,共同研究者の皆さんと共に,いくつかのフィールドで野外調査を展開してきました。

Kiryu 桐生

 滋賀県南部にある温帯ヒノキ林。1967年に流域試験地として設けられて以降我が京大森林水文学研究室の大事なメイン調査地。森は貧弱だが研究は多岐にわたり充実していて,いろんな人がいろんな研究をしている。新測器をフル投入しすぎてタワー周辺はコードと測器であふれかえり,謎の磁場の存在がささやかれている。

Pasoh パソ

 半島マレーシアにある熱帯雨林の天然林。フタバガキ科を中心にかなり多様な樹木が生育している。マレーシア森林局によって守られている保護区である。周辺の森林は年々面積を減らし孤立化が進んでおり、まわりははてしなくつづくオイルパームによってとりかこまれている。トライアングルタワーがある。乱流測器をつけている樹冠上の52m地点にいると,雷雨の前にいつもの方向から雲が近づき,涼しい風が吹いたかと思うとあっという間に森がざわざわと暗転する様を見ることができる。一見の価値あり。(でもはやく逃げないとこわい。) ヒルと緑のヘビには気をつけた方がよい。

 Gas Exchange Studies at Pasoh (English)
 パソ熱帯雨林のガス交換研究 (Japanese)
 パソタワーサイトにおける研究プロジェクトHPを設置しています

Akou 赤穂

兵庫県赤穂市にある暖温帯常緑広葉樹林(照葉樹林)。実は関西電力赤穂発電所内の緑地である。1987年にエコロジー緑化(いきなりシイカシ類を含む里山系樹木の苗を高密度で植栽して一気に自然な感じの森を再生しようという緑化工法)の一環として造成された。13種の常緑広葉樹と2種の落葉広葉樹からなる。暑くて殺風景で蚊が多い。しかし冬の泊まり調査には魚介鍋に温泉がついている。

Tomakomai 苫小牧

 北海道大学フィールドセンター苫小牧試験地(演習林) の冷温帯落葉広葉樹林。最近共同研究させていただくことになった。美しくすがすがしい森である。でもクマがいる。


Reseach Topics


研究に関するトピックス・学会発表やゼミ発表のファイル・ポスターなどを置いています。

T1どんな構想で研究しているか/T2桐生渓流水のSiO2濃度形成/T3多層モデルのおもしろさ/T4乱流変動法ってどうやるの?/T5桐生試験地ヒノキ林における蒸発散量の評価/T6ガス交換と森林水文学


T6 ガス交換と森林水文学(2004/4/5)  戻る

 「ガス交換と森林水文学」(2007.4.4森林水文ワークショップの資料)[PPT]

ガス交換と森林水文学って、関係あるの?  という疑問への、私なりの考えです。


T5 桐生試験地ヒノキ林における蒸発散量の評価   戻る

 「桐生試験地ヒノキ林における蒸発散量の評価」(2003.11.29研究会の資料)[PDF]

「森がどれくらい蒸発散しているか」、このことは森林における水循環、そして「緑のダム」的機能を考える上ではずすことのできない大きな要素である。桐生試験地は、そんなことを考えた京大砂防学研究室の先輩たちが30年以上も前から流域試験を行っているパイオニアサイトである。桐生試験地における30年間にわたる蒸発散量評価の歴史をうけて、我々が今現在行っている観測はどのような新たな知見を積むことができるのか・・・。こんなことを考えて、桐生試験地ヒノキ林における蒸発散量の評価の30年を概観してみました。

先輩方のやり方にのっとりこれまで30年分の水収支から求めた年単位損失量(=蒸発散量)をあらたに見てみるとともに、30年分のデータに短期水収支法を適用してみました。これらの今では古典ともいえるやり方から得られる知見は非常に大きく、「ヒノキ林がどれくらい蒸発散しているか」という疑問にはっきりと量的に答えてくれる迫力あるデータといえます。

一方で、我々が最近やっとの思いでつくりあげた2年分の乱流変動法および微気象各項目のデータベースをもとに「蒸発散量」に注目して解析してみた結果を紹介していますが、これはどうでしょうか。まず乱流変動法が直面しているいまや避けてとおることができない「インバランス問題」、これはこれで面白い課題ともいえますが、必死であちこち細細した項目を測定したり補正したり解析したりした結果、「う〜ん、がんばったけどやっぱりもうちょっとたりないね、まぁこんなくらいならよしとして目をつむるか」といった状況で、おそらく「乱流変動法って、ちょっと使えないかも・・。」「大変そうな割になにがわかるのかね?」とひそかに思ってる人も多かろうと思います。

桐生サイトでの微気象観測は1980年代に、乱流観測は1990年に始まりました。先輩方がなぜ水収支法に飽きたらず微気象法に手をだしたか、それはきっとPenman-Monteithの群落抵抗、空気力学的抵抗とBig-leafモデルの概念に触発されてのことと思います。微気象法には水収支法にない大きなメリット、すなわち刻々変動する森林における蒸発散およびエネルギー収支を樹冠上でありのままの姿でとらえられる、タイムスケールの長があります。このことは「大体どれくらい」という量の把握から、「どんな要因でどんなふうに決まっているのか」というメカニズムの解析への道をひらくことを可能にすることを約束していました。そして、最初の乱流観測が桐生サイトで始められてから今年で15年目になります。この間、研究室の友人や後輩たちが乱流変動法と大格闘するのをみてきました。後半1/3くらいは自分も「毒をくらわば皿まで」と思ってがんばってきたつもりです。そしてやっと(ほんとうにやっと、という思いが強いです・・)まともに計算できた2年分の「群落抵抗」の季節変化です。

で、なにがわかったか。

どうもヒノキ林は群落抵抗が小さいみたい、気孔閉じ気味みたい、ってことがわかりました。  (ふーん・・・。)

で、これからどうするか、です。

(インバランスの問題はさておき)やっと測れるようになったので、あちこちのボーエン比や群落抵抗や空気力学的抵抗なんかを較べてみたい、という欲求が我々の先輩方の世代にはあるように思います。それはそれで面白い課題です。森林タイプによる違いなんかがわかったらさぞ面白いでしょう。(この道も多いにありです。自分もちょっとはやってみるかとも思っています。)

 しかしながら「群落抵抗」の概念や解析は、今や「古典」の領域にはいっており、その手法自体にほとんど斬新さはありません。なにより問題なのは、植生による群落抵抗の大小や季節変化の違いがわかったとして、それが「なぜ」そうなのか、これはたぶんただ群落抵抗を調べるだけでは、わからないような気がします。

 このことを知るためには、やはり一枚一枚の葉の気孔コンダクタンスとか、光合成との連動とか、これがどのように積み上がって樹冠スケールになるかとか、葉の水ポテンシャルとか、通水抵抗とか、そして土壌―植物―大気連続体における水の流れがこれにどう関係しているかとか、こういったことを調べることが大事なように思います。そして、自分の出番もこういったところにあるように思います。

(実は遮断の話をはしょりました。すみません。)

(そして、PDFファイルはすごく重いです。すみません。覚悟してクリックしてください。)

T4 乱流変動法ってどうやるの?(2004.9.11)  戻る

 「乱流変動法によるCO2フラックスの計算方法の概要」[PDF]

とある人から、部外者・初心者にもわかりやすいように乱流変動法を説明してくれといわれ、資料をつくりました。乱流変動法って、よくきくけど実際どんなことやってるのか難しそうでとっつきにくい、と思っている方、よかったらご覧下さい。(実際計算してみたい人にはほとんど役に立ちません)

T3 多層モデルのおもしろさ(2004.9.11)  戻る

 修士にはいってからずっと個葉ガス交換の研究をしてきて、最近は樹冠上フラックスの研究にも手をだしている。恩師の先生が複数のテーマをもちどんどんいろんなことをしなさい、頼まれた話は断るな、といつもいっていたので、持ちかけられた話をできるかぎりことわらずにこれまでやってきた。その結果、こういうことになってしまった。それでも研究を始めた頃の気分はいつまでもかわらず、自分のことを「水文系ポロメータ屋」だと思っている。そして、フラックス仕事もやるようになった水文系ポロメータ屋が、自分の持っている素材をつかってできる限り工夫をして面白い解析をしたいと思ったら・・・、やっぱり多層モデルにいきつくことになると思う。多層モデルはまさに森林水文学研究室のポロメータ屋のためにあるモデルで、やたら細かい割にはプロファイルなんかは結構あたらないし(内緒の話だが)、それになによりも、いいかげんな植物活動が最も影響力の大きな要素でこれ次第でなんとでもなってしまうとあっては気象屋・フラックス屋の人にはあまり面白くないような気がする。また生態学の光合成研究の人にとっても、蒸散との相互作用にあまり興味ない場合は無駄な部分が多い煩雑なモデルだと思う。他分野の人にはまた違った思いがあるのかもしれないが、多層モデルの利点を最大限生かすことのできる最も重要な要素は、どうみても個葉ガス交換過程における光合成・蒸散活動の相互作用にみえる。(あるいは樹冠遮断屋さんにも、多層モデルはおすすめかもしれない。)

「多層モデルの意義」、まぁ色々言いようはあるだろうけど、多分自分は、ポロメータで測る一枚一枚の光合成や蒸散現象が相互に、また周囲の環境と作用しあいながら積み上がって樹冠上のフラックスになる、あるいはうまくならない(その中にはなにか大きな秘密がある)、その様のおもしろさのためにやっているように思う。そして、そのために、世の中のモデル屋さんのように世界中の植生に適用してどんどん数値実験してみたい、といった気持ちはあまりないが、いくつかのサイトに適用して較べたりいろいろ考えたりしてみたい気持ちは大いにある。

我々の扱う自然現象は複雑そのもので、葉のガス交換にしてもなかなか一筋縄ではいかず、フィールドでは絶えず複雑でうまく説明できない現象に出会うことになる。このような様々な現象にであうことは非常に興味深く、フィールド研究者の特権であるように思う。そしてたぶんフィールド研究者にもいろんなタイプがあって、現象そのものをとらえることに一番の喜びを見いだすタイプの人達もいるが、自分はちょっとした解析で現象が説明できてしまうようなときに一番研究の面白みを感じるので、多層モデルはとてもおもしろいツールのひとつだと思っています。


科研費(若手研究(B))「多層モデルを用いた植生面上における熱・水・二酸化炭素交換過程の解明」申請時の書類
を載せてみました(2001.9.13作成)

T2 桐生渓流水のSiO2濃度形成(2004.9.7)  戻る

1990年秋から一年くらいの間,桐生の雨,林内雨,土壌水,湧水,渓流水のSiO2濃度を測ってました。その年桐生での水質調査が立ち上がったばかりで,SiO2は当初の分析プランにはなかったが,先生になにかおもしろそうな新項目を測ってみないかと言われてはじめた。最初は「アルミと酸性雨」みたいな論文を手渡されたが分析経験もない身には難しくパス。先輩がSiO2なら分析してる人知ってるよ,といって2F(?)の南棟あたりに棲む先生のところに二人で方法を聞きに行った。SiO2分析方法を模索するところからはじめて,1000サンプルくらい分析したと思う。降雨イベントの水もほしくて何度か取りに行きました。そして自分なりにわかったこと。

1.あちこちの井戸で地下水があったかどうかの星取表を作ると,飽和帯,遷移帯,不飽和帯,みたいな区分ができるみたい。

2.土壌水のSiO2は深度が深くなるとどんどん濃度が濃くなるが,どうも地下水になってしまうと濃度はかわらないみたい。

3.かなりBigな降雨イベントでないと,ちょっとした台風ごときでは渓流水の濃度は変わらないみたい。(流出分離してみたらおもしろかったけど,論文書くときだし惜しんだため日の目を見ず・・・)

4.渓流水のSiO2って山体の地質で決まってるみたい。試しにあちこちの水をはかってみるとと地質で全然違う。

そしてそのときわからず,今でもやっぱりわからない・・・と思ってること。(もうわかっているなら誰か私に教えてください)

1.渓流水のSiO2は結構安定しているけど,春から夏前になるとすこし濃度が下がった。最初サンプルを置きすぎた?と思ってやっきになってスタンダード(観測を始めたある日にたくさん渓流水をサンプリングしておいて自前のスタンダードにしておいた。)と比較するも,分析ミスでないことがわかる。ではなぜ渓流水のSiO2濃度は初夏に下がる季節変化をみせるのでしょう・・・?(そして月日は15年経つ。その後後輩たちによって、研究も進んでいます。)

T1 どんな構想で研究しているのか(2004.4.9)  戻る

環境がどのようなものであるかによってどのような植物が存在できるのかが決定され、また植生が存在することによって環境にも影響を与える。 このような環境と植生との相互作用は, 「森林は二酸化炭素を吸収し酸素を出していて、空気をきれいにしてくれ、温暖化も抑制してくれる。」 「砂漠に植林すれば緑が取り戻せる」 「森は緑の水がめで、豊かな天然林はたくさんの水を蓄え、我々に飲み水を供給してくれる。」 といったイメージでとらえられることが多い。でも実際はどうなの?? 森林がどのように環境や水循環に影響を与えるのか、まだまだわかっていないことが結構ある。

例えば−

一枚の葉、一個の植物体でどのようなことが起こっており、それがどのように積み上がって、森全体での水や二酸化炭素や熱などの流れを決定しているのか? あるいはすべては立地の条件(土壌水分や窒素等栄養塩類の条件など)や気候・微気象といった大気環境によってあらかじめ決定されており、植物による調整幅は小さいのか? そうだとすると、そのなかでの植物の戦略とはどのようなものなのか?

森林における微気象・水循環・炭素収支・その他物質交換過程を特徴づけているのは、植物の存在およびその生物活動(光合成・呼吸・蒸散・吸水など)である。では、植物の存在がどのように森林における微気象・水循環・炭素収支・その他物質交換過程に影響を与えるのか、植物および生態系はどのようにしてどの程度、この交換現象を制御することができるのか? また、どのようにしてこれらのサイクルのなかで平衡を保ちながら生活しているのか?

そしてその結果、水は、二酸化炭素は、どこからどこへ、どのように流れていくのか? 森の機能とはどのようなものなのか?

観測とモデリングを有機的に結びつけることで,このような疑問に対して少しづつ答えを見つけていきたい。

(森林の炭素固定量・蒸発散量・流出過程への寄与等の評価という面でも、ブラックボックス型の理解ではなくメカニズム重視型の理解を目指したい →「森林シミュレーターsimFOREST」構想)

最近は,そんなことを考えながら研究をしている。



 
 
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